伊予絣 河野正信 著 元来、絣は藍染の先染め織物であるために、染めの段階において「差込み」ができる。もちろん括りに注意はするが、類百本(結城もほぼ同じ)の糸を一緒に括る性質上これを完全に防止することはできない。織りとの関係は無視してすすめて制作するわけにはいかず、糸に模様をつくることで織り上がりのものに付加価値を生み出す作業が絣の仕事といえる。織る前に一手間加えることで織物に設計されてできる絣模様が浮かび上がっていく。織りの段階においても両端で模様をあわすように調節するがやはり「絣のあし」が出て「カスレ」ができる。「カスレ」が「カスリ」に転化したもので捺染(なっせん =直接染色法=刷り込み=スリコミ この捺染にあたる絣ものは薄地に絣を入れることで模様をつくりだすが、ひとえに絣括りとは完全に区別されている。捺染および直接染色法による絣の模様づくりは結城紬でいえば国の重要無形文化財指定の要件ではない絣模様のつくり方である。さらにはユネスコ無形文化遺産登録のものづくりではない絣の模様づくりである。防染にあたる絣括りおよび手括りによってのみ絣模様をつくりだした絣のみ、国の重要無形文化財指定要件を満たしているといえ、ユネスコ無形文化遺産登録の保護対象はこの模様づくりにある 絣括りによってつくり出される、しぶみと陰影のある模様は防染によってつくりだされる。捺染と防染の技法は、まったく別の絣模様づくりであるというのが絣の作り手の一意見であり、見解である。)と異なり独特の美しさが生まれてくる。絣は普通、地色以外の白または色で一定の間隔をおいて模様を配したもので、地色を合わせて二色で成っているものを二色絣、三色であれば三色絣とよぶ。また絣の色をさして目色(めいろ)とよぶ。絣は目色を残して目色が残るように染色をかさねていくのが通常一般的である。結城の場合は目色はややおちつきのある色で控えめにすることで紬の布地や糸を逆に強調するという場合が多いが消費者には伝わりにくいといえる。縞に絣をあしらってできる絣を「あしらい絣」とよぶ。経糸ばかりが絣糸の場合の絣を「経絣」とよび、雨絣とよばれる絣もこの経絣の一部にあたる絣といえる。緯糸だけでできた絣を「緯総絣 よこそうがすり」または「緯総」とよび経緯に絣をつかえば「経緯絣」とよぶ。定まった絣模様を織りだすとき模様のために特別に寸法をあわせ、つくる絣を「合わせ絣」とよび、たとえば井筒絣、十守絣、亀甲絣がある。追加するのであれば、十字絣(蚊絣)も厳密にいうのでればこれの最も簡略簡潔にした絣にあたる。この著書は私のような絣で生活をしてきたものが、外部のまたひとつの絣産地をみつめることができるので私には貴重な資料である。結城の産地と似ている歴史が当然あり、その多くは作業工程にみつけだすことができる。古図によってそのおおまかな工程を絵師などに記録させた一面も似ているし、何故そこまで好き好んで手間をかけるのか一般理解を超えるところに絣の意味がこめられているが多くのものはそのことに気がつかない。作業工程数経糸で伊予絣はおよそ20工程をかぞえ、緯糸も同じくらいありあわせると40工程にもおよぶ。これは結城も同じで絣をつくるときにはそのくらいの細かな工程を通過して生産されることは他の絣産地も同一であるといえるのではないだろうか。この40工程をなんとか簡単にしたいのであれば、捺染のものに逃げるしかないのである。このことは到底写真から味わうことは不可能であり、絣を手にしたとき、初めてそのこころが肌を通じて感得されるという点でも同じといえる。現代人はそうした意識も希薄になりつつある。 北村陵