きもの 幸田文 きもの(着物)が日本人の当たり前の<ころも 衣 >であった時代が何故こんなにも人の心に響いて潤すのだろうか。著者の幸田文さんは、きものを題材にしてごく当たり前のように筆をすべらせた。その当たり前があまりにも自然体で自然美なのである。きものを通して幼少期からの女性の成長をえがくものであるが、きものの不便さと便利さをも正確に忠実に繊細に描写している。そのきもの生活のなかで家族と凸凹な姉妹が人情と愛情で成長していく。それらがなんとも言えない奥ゆかしく質実なのである。決してお金に恵まれているわけではないが豊かなのである。余計それが今を持って過去を美化してはいけないがきものを通しての家族と絆が幻想的な美しさを秘めている。関東大震災にあってからとその前のありふれた日常ときものを描ききった著者の自伝的小説との見解と位置づけは正しい。幸田文の文学はこの一冊に凝縮されていよう。自意識のナルシズムと世界観が挫折をむかえない強さのようなものがそこにある。こういったものをかかれると私も惹かれてしまい、大変弱ってしまう。<ぼろはきててもこころはにしき>とはいったもので生活感あるきもの女性の姿を忠実にえがき、美しくそして内面も強い女性であり続けたいと今昔(こんじゃく)の女性は願っている。そうした意味で一読の価値はおおいにあるため、この著書をすすめる。人のこころに残る作品こそ真の成功であり名著といえる。幸田露伴が父であり自慢の娘と天国でほほえんでいるであろう。 北村陵 北村織物