織りの事典 しなやかな手仕事 施(あしぎぬ)について:なかでもピックアップすべきは結城紬、つむぎの原型とされている正倉院宝物、施(あしぎぬ)とそれに本場結城紬であろう。施は7,8世紀の世界に比類をみない高い品質とスケールの大きさで正倉院の宝物は美術的工芸品としてばかりでなく、史料的価値も計り知れないものがある。染織品も例外ではなく施に比べて脇役的な存在ではあるが、衣服や敷物などの裏地も見逃すことができないものである。施は平絹の一種ではあるが平絹は品質により精緻で上等のものを絹といい、それよりやや粗く質の落ちるを施(あしぎぬ 悪しき絹)というとされている。しかし、正倉院に伝えられ、施と墨書きされたものを見ると使用されている糸もほぼ均質で奇麗に織られたものがあり、絹と施の区別が非常に困難な場合が多い。このような施も調布や庸布(ようふ)とともに貢納品として中央政府に地方から上納され、製品に墨書きされた銘によって奈良時代中期に各地で織られていたことがあげられる。

本場結城紬について:織着尺の最高峰は重要無形文化財指定の結城紬(平織り)にとどめを刺すが同等の価値観をもつ縮(ちぢみ)の結城紬は織歴(大正期はじめごろ)が浅いため、県無形文化財という一段下の格付けのまま置かれている。そのため流通機構の扱いは平織に集中して縮は衰滅寸前という矛盾をきたしている。結城紬は手つむぎ糸を手でつむぎだし、手括り(絣くくり)して染め、地機で織りあげるという結城紬は現代に中世の織技を伝えるまれな織物である。 北村織物 北村陵